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2010年10月29日

上条(悪)「その希望(幻想)をぶっ殺す」2


361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 12:47:54.83 ID:Z0RnR+KN0 [19/64]

上条「オラァ!!」

 上条は神裂の顔に向かって拳を振るう。
 小気味良く顎を跳ね上げるはずだったその一撃はしかし、神裂が上体を逸らしたことであっさりと空を切った。

上条「あら?」

 次の瞬間猛烈に悪い予感が上条の全身を、主に股間に集中して駆け抜ける。

上条「おわああああ!!!!」

 上条は慌てて左手で股間に迫っていた神裂の膝を押さえた。
 そのとんでもない威力に、上条の体が一瞬宙に浮く。

上条「おま! こんな威力でこんな所蹴っちゃだめだろ!! キ○タマは狙わないっていうバトルの不文律を知らんのか!!」

神裂「何を甘いことを!!」

上条「やべ!!」

 男性としての危機に思わず刀を押さえていた左手を離してしまっていた。
 神裂の右手が抜刀しようと刀の柄に伸びる。

上条「そっちがその気ならこっちも手段選ばねえぞ!! オラァ!!」

 上条は右手で思いっきり神裂のシャツを上に引っ張った。
 ぽろん、と神裂の形のいい左乳がむき出しになる。

神裂「……はい?」


370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 12:54:09.91 ID:Z0RnR+KN0 [20/64]

神裂「きゃわあああああああああああ!!!!」

 瞬時に顔を真っ赤にした神裂は慌てて両手でシャツを下に引っ張り、むき出しになっていた己の左おっぱいをシャツの中にしまった。

上条「戦闘中に両手を塞ぐなんて、そりゃもう下策の下策だぜ!!」

 上条は再びポケットから銃を取り出し、引き金を引いた。

神裂「しまっ…!」

 パン、と乾いた音が響き、神裂が刀を腰にくくりつけていた紐が千切れ飛ぶ。

上条「よっしゃあ!!」

 上条は宙を舞った刀を思い切り蹴り飛ばした。
 カランカランと音をたて、刀が地面を転がっていく。

神裂「くっ…!」

上条「刀の行方を追って余所見とは、こりゃもう下策の三乗だな!!」

 上条の拳が神裂の腹に突き刺さった。


377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 13:01:56.48 ID:Z0RnR+KN0 [21/64]

上条「……いってええええええええ!!!!」

 しかし悲鳴を上げたのは神裂では無く上条だった。

上条「かってえ!! どうなってんのお前の腹筋!!」

神裂「言ったはずです。私は聖人、その身体能力は人間の限界値を生まれながらにして超えています」

上条「ハッタリじゃなかったんかよ……!」

 上条は歯噛みする。
 神裂はげほっ、と一度だけ咳をした。
 聖人たる神裂とてまったくのノーダメージというわけではなかったのだ。

上条「だらァッ!!」

 今度は上条の拳が神裂の顔面を捉えた。
 ステイルを体ごと吹き飛ばした一撃をその身に受けて、しかし神裂は揺らがない。

神裂「聖人を相手に肉弾戦を抱くことの愚かさを知りなさい!!」

 神裂も握り締めた拳を上条の体に叩き込む。
 が、その一撃は上条が左手を添えることであっさりいなされた。

神裂「なっ…!」

上条「左手は添えるだけ……ってなぁ!!」

 今度は上条の膝が神裂の脇腹に打ち込まれ、神裂の体が一瞬浮いた。


380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 13:11:54.41 ID:Z0RnR+KN0 [22/64]

 しばらく、武器も小細工も何も無い、肉弾戦の応酬が続いた。
 神裂火織は何度目になるかわからない拳をその顔に受けて、ただただ驚愕していた。

神裂(この私が…一撃も…当てられない!?)

 上条当麻は確かに消耗している。
 だがそれは、単純に体力がなくなってきているだけだ。
 神裂が消耗しているように、ダメージが蓄積しているのではない。

上条「いい加減倒れろよなあ……あれかい? 聖人ってのは基本的にマゾなのかい?」

 軽口を叩いてくる上条を神裂は睨みつける。

神裂「あなたは……何者なのです?」

上条「何者って言われてもな……この学園都市の最底辺を生きる、正真正銘の無能力者だよ」

神裂「あなたは強い。しかし、腕力やタフネスといった実質的な身体能力は私のほうが遥かに上です」

 にもかかわらず、神裂は上条の手によってボロボロにされている。

神裂「けれど……あなたの危機察知能力、そしてその回避能力は、異常だ。人の域を逸脱している」

 そう、結局、神裂の劣勢の理由は明白だった。
 攻撃が当たらないのだ。そのことごとくをかわされ、いなされ、無効化されてしまうのだ。


384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 13:20:45.78 ID:Z0RnR+KN0 [23/64]

 腕力、脚力、その他全ての身体能力。
 上条当麻のそれは確かによく鍛え上げられていた。
 しかしそれはあくまで人間の達しうる領域までの話だ。
 そんな中で、上条の危険察知・回避能力だけは人間の域を遥かに逸脱していた。

 人の身でありながら、神の域に辿りつきし者。
 この学園都市では、それをなんと呼ぶのだったか。

神裂「くっ…!」

 遂に神裂が膝を突いた。
 とどめと言わんばかりに上条は、ちょうどいい位置に下がってきた神裂の頭を蹴り飛ばす。
 叩きつけられるように地面を転がった神裂に、もう立ち上がる力は残されていなかった。

神裂「……ただの学生の身でありながら……何故…それ程の力を……」

上条「うるせえよ。人の過去を詮索してんじゃねえ」

 そもそも思い出したくも無い過去なのだ。

上条「さて、けっこうスッキリしたし俺はもう帰って寝るけど、もう手ぇ出してくんなよ」

 上条はそれだけを言い捨てて、倒れ付す魔術師達には目もくれず、その場を立ち去った。


389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 13:28:29.59 ID:Z0RnR+KN0 [24/64]

 上条当麻の過去そのA

 上条当麻は純真な子供だった。
 上条当麻は『疫病神』と忌み嫌われながらも、それでも皆の幸せを願う善良な子供だった。
 だから、自らの不幸体質で皆を巻き込んでしまうことを容認できなかった上条はこう考えた。

 否応無く誰かを巻き込んでしまうのなら、そのことごとくを救えるほどに強くなればいい。

 そのための努力を、幼い上条は惜しまなかった。
 周りの子供から忌避され、必然的に増えてしまう独りの時間を、己の研鑽に費やした。
 結果は出た。
 上条は、遂に自分の不幸によって事件に巻き込んでしまった誰かを無傷で助けることに成功した。
 これで皆と仲良くやっていくことが出来る。
 幼い上条は純粋にそう思った。
 助かってよかったね、とその時救った友達に笑いかけた。

『何言ってんだよ。元々お前のせいだろーが』

 それが友の返事だった。

 その日から、上条には新たなあだ名がついた。



 『自作自演野郎』。




415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 14:21:11.71 ID:Z0RnR+KN0 [27/64]

 上条当麻は夢を見ていた。
 それは在りし日の、『疫病神』と忌避されながらも、『自作自演野郎』と蔑まれてながらも笑って日々を過ごせていたあの頃の記憶。
 上条当麻は両親からの溢れるほどの愛に包まれていた。
 息子の右手に宿る『異常』によって、数々の不幸に見舞われながらも、したたかに生きていける強さを上条当麻の両親は持ち合わせていた。
 あれ程過酷な幼少時代を過ごしながら、それでも上条が人間として当たり前の善良さを失わずに生きてこれたのは間違いなくこの両親のおかげだった。

刀夜「ハッピバースデイとーまー」

詩菜「ハッピバースデーとーまー」

 声をそろえて歌う夫婦に、上条は照れながら「よせよ」と笑った。
 テーブルに鎮座するド派手なケーキには当麻の名前と、14という数字が描かれている。

刀夜「当麻、理不尽な困難に負けるな」

 それが父の口癖だった。

詩菜「誰かの不幸を背負ってそれでも笑える当麻さんを、私はとても誇らしく思うわ」

 それが母の口癖だった。

上条「言われるまでもないよ」

 それが上条の、いつもの答えだった。


419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 14:28:56.97 ID:Z0RnR+KN0 [28/64]

刀夜「きっと、これからもお前にはたくさんの理不尽なことが降りかかる。でもな、お前は決して一人じゃないぞ」

詩菜「そう、あなたには、いつだって私達がついてる」

刀夜「確かに、今はお前のことを真に理解し、傍にいてくれるのは私達家族だけかもしれない」

刀夜「だが、忘れるな」

刀夜「いつかお前にも、お前を理解し、共に在ろうとしてくれる人は現れる。それは絶対にだ」

詩菜「当麻さんは、不幸に負けないくらい、優しい子ですものね」

刀夜「そうだ。その時、きっとお前は怯えるだろう。自らの不幸に巻き込むことを恐怖するだろう」

刀夜「だが、その恐怖を乗り超えろ。どんなに怖くても、その手を振り払うな。辛さを共にわかちあうことは、何にも悪いことなんかじゃない。わかったな、当麻」

上条「わかったよ、父さん」

 父は力強く頷き、母は優しく微笑み、和やかな雰囲気の中、「乾杯」と父は声をあげた。

 でも、そのグラスが合わさることは無かった。


423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 14:35:43.10 ID:Z0RnR+KN0 [29/64]

 それは今まで起こったどの不幸よりも理不尽だったし、突然すぎた。
 塀を砕き、窓ガラスを突き破り、突然、リビングにトラックが突っ込んできた。
 家で誕生日パーティーを行っていたら、居眠りトラックが突っ込んできた。
 笑えない、笑うしかない、不幸。

 父は母を庇った。母は息子を庇った。
 結果、トラックに押し潰されたのは父と母だけで、息子である当麻は助かった。

刀夜「忘れるな…当麻……」

 それが、父の最後の言葉。

 上条当麻は忘れない。この凄惨な光景を。
 善良だった少年はこの時に一度死んで、生まれ変わった。

 ハッピーバースデイ。


429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 14:42:46.46 ID:Z0RnR+KN0 [30/64]

上条「ん……」

 プルルルとやかましく鳴る携帯の音で目が覚めた。
 いつもなら寝起きの不機嫌さに任せて携帯を壁に叩きつけるところだが、今日ばかりは少し感謝する。
 あんな夢、さっさと目覚めさせてくれてありがとよ。
 忘れるな、という父の最後の言葉が耳にこびりついて離れない。

上条「言われなくても忘れてねえよ。少なくとも、こうして頻繁に夢に見る程度にはな」

 上条は一人毒づいて携帯電話の着信画面に目を落とした。

上条「…?」

 知らない番号だった。
 不審に思いながらも、上条は通話ボタンを押す。

上条「……もしもし?」

冥土帰し『おお、本当に君に繋がるとは。インデックス君の記憶力は大したものだね』

 聞こえてきた声に、上条は半ば以上本気で携帯を壁に叩きつけようかと思った。


430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 14:48:36.86 ID:Z0RnR+KN0 [31/64]

上条「何でアンタが俺の携帯知ってんだよ?」

冥土帰し『いやね、インデックス君が、コモエという人が君に電話をかけている所を見ていたというんだよ』

 つまり、番号発信画面を目にしていて、それを覚えていたということか。
 つくづく便利だな。完全記憶能力。上条は苦笑した。
 いや、それでも寿命が縮まるなんてデメリット付きなんてもん、あげると言われたっていらないが。

上条「それで、アンタが一体俺に何の用なんだよ」

 冥土帰しの医者に投げる上条の言葉は刺々しい。
 上条と冥土帰しの出会いを紐解けば、その態度は必然と言えるかもしれなかった。


434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 14:57:15.40 ID:Z0RnR+KN0 [32/64]

 理不尽極まる事故で両親を亡くした上条は、あちらこちらをたらい回しにされた末に学園都市にたどり着いた。
 どういうわけか学費免除、住居無償提供という高待遇で、である。
 そんなおかしな状況に、通常であれば疑問を抱いてもおかしくはなかったが、しかしその時の上条にはそんな気力は欠片も残っていなかった。
 かつての善良な少年の残りかすは、学校にも行かず、家とされた部屋にも帰らず、当て所なく街をさ迷う日々を送っていた。

上条「死のうかな……」

 ある日、上条はとても自然にそう考えた。
 そうと決めたら行動は早かった。何故か金だけはたっぷりある。
 上条は電動ノコギリを購入した。
 携帯式のバッテリーで動くそれを、己の右手首に押し当てる。

 なんとなく、この右手が悪いんだということは察していた。

 電源をオンに切り替える。
 ぎゅいいいいいんと耳を刺す音が響き、ぶちぶちと、がりがりと上条の右手を切り進んでいく。

上条「……」

 上条はそれを、まるで他人事のように見つめていた。
 悲鳴の一つも上げなかった。
 やがて、ぶちんと音がして、ぼとりと右手が地面に落ちた。
 上条はそこで意識を失った。

冥土帰し「おや?」

 そこを一人の医者が通りかかる。
 それは幸運なことに――不幸なことに――学園都市で最高の腕を誇る名医だった。


438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 15:02:48.67 ID:Z0RnR+KN0 [33/64]

 目が覚めて、自分が病院のベッドで寝かされていると気付いたとき、上条は最初にまず笑った。

上条「すげえ……死ぬことも出来ねえのかよ」

 こんなクソッタレな世界を生きていけって言うのかよ。
 それは、なんて、不幸の究極。

上条「わかったよ。わかった。生きればいいんだろ。人に迷惑かけて、忌み嫌われて、それでも生きていけって言うんだろ?」

 上条はそこで全てを諦めた。
 全てを諦めて、死ぬことすらも諦めて、ただ流されるままに今を生きている。


442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 15:07:53.28 ID:Z0RnR+KN0 [34/64]

上条「用がねえなら切るぞ」

冥土帰し『まあ待ちたまえよ。用ならあるよ。無ければ電話をかけたりするわけないじゃないか』

上条「ならさっさと言えよ」

冥土帰し『やれやれ、せっかちだね。まあいい。なら単刀直入に言うよ。君の力が必要だ、上条当麻』

上条「な…に……?」

冥土帰し『インデックス君から全ての事情は聞きだしたよ。僕は医者として彼女を救うことを決定した。その為には君の不可解な右手の力が必要なのだよ』

上条「待て。それはどういう……イチから説明しろ」

冥土帰し『やれやれ、君が急かすから話をはしょったんじゃないか。まあいい』

冥土帰し『完全記憶能力が人を殺すなんて嘘っぱちだ』

上条「はあ…!?」


454 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 15:14:18.75 ID:Z0RnR+KN0 [35/64]

冥土帰し『うん、その反応だと彼女の事情についてはある程度わかっているみたいだね』

上条「ちょ、ちょっと待てよ。だったら、あいつらは何で…?」

冥土帰し『まあ単純に考えて、そうやって騙されていたんだろうね』

上条「あれ、おい、待て。アンタあいつらって言ってわかんのか?」

冥土帰し『赤い髪の男の子と黒髪の女の子だろう? 知っているよ』

上条「なんで!?」

冥土帰し『今となりにいるもの』

上条「はああ!?」

冥土帰し『インデックスを引き渡せ、と地面に頭をこすりつけて頼むものだからね。取り合えず中に案内して、事情を聞かせてもらったところだったのさ』

上条「……ああ、そう」

 結局、魔術師たちは上条の説得を諦め、ほんとのほんとに正攻法のど真ん中、ド直球で挑んだらしかった。


458 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 15:21:41.00 ID:Z0RnR+KN0 [36/64]

上条「それで……完全記憶能力が人を殺すのが嘘だっていうのは?」

冥土帰し『キミ、記憶のし過ぎで脳みそがパンクするなんておかしな話、聞いたことがあるかい? 僕はあいにく寡聞にして知らないね』

上条「だから、それを可能にしちまうのが完全記憶能力なんだろう?」

冥土帰し『完全記憶能力、なんてものは別に彼女だけの特権じゃないよ。世界中探せばそんな体質の人間はごろごろいる。僕の知り合いにもいるよ。今年で56歳になる。いい茶飲み友達だ』

上条「……なら、どうして魔術師の連中は一年ごとに記憶を消すような真似を?」

冥土帰し『さあ? 魔術の世界なんて僕にはさっぱりだからね、わからないよ』

冥土帰し『まあそれでも、仮説を立てようとするなら、そうだな、彼女の頭に眠る103000冊の魔道書ってのは相当危険な代物なんだろう?』

冥土帰し『大方、それを管理するための方便じゃないかな。一年毎のメンテナンスと称して、それにより彼女の行動を監視する大義名分を得るため』

上条「そこにいる魔術師連中が聞いたら発狂しそうな話だな」

冥土帰し『さっきまで号泣していたよ。そしてインデックス君に必死で謝っていた』

上条「インデックスは……」

 許したんだろうな。あの性格なら。
 わかりきった質問だったので、上条は聞くのをやめた。


459 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 15:26:00.47 ID:Z0RnR+KN0 [37/64]

上条「それで、そこでどうして俺の『幻想殺し』が必要になる」

冥土帰し『うん、それなんだけどね。どうやら一年ごとに記憶を消さないと命に関わるってのは本当らしいんだよ』

上条「はあ? なんだそりゃ? さっきと言ってることが……」

冥土帰し『完全記憶能力は関係ないよ』

上条「なるほどね……そういうことか」

冥土帰し『そういうことさ』

 呪い。
 学園都市最高の医術をもってしても解けない、異能の力が、インデックスの命を縛っている。
 そこで、上条の力が必要なのだ。

上条「それを、俺が了解するとでも?」

冥土帰し『しないとでも言うのかい?』

 まるで見透かしたようなことをカエル顔の医者は言う。


462 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 15:32:17.35 ID:Z0RnR+KN0 [38/64]

冥土帰し『ようやくさ。ようやくなんだよ? 他人を不幸にするしかなかった君の力が、ようやく誰かのために必要とされている』

冥土帰し『君はそんな千載一遇のチャンスを棒に振るのかな?』

上条「……」

冥土帰し『……成程、わかったよ。ならば少し搦め手を使わせてもらおう』

冥土帰し『上条くん、君、右手の治療代金を支払ってないよね?』

上条「……はあ!?」

冥土帰し『治療費は、支払い遅延料を足して三億だ。今すぐ耳をそろえて払ってもらおうか』

上条「ちょ、ちょっと待てオイ!!」

冥土帰し『もし君が僕の患者を助けるために力を貸すというんならチャラにしよう。待ってるよ』

 ブツン、と音を立て電話は切れた。
 上条は携帯を寝床にしているソファに投げつける。

上条「勝手に助けて、それで法外な治療費を払えって? クソッタレ……なんて悪徳医者だよ」

 上条は頭を掻き毟る。視線は、入り口のドアを向いている。
 しかし、足が一向に前に進まない。


466 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 15:36:01.96 ID:Z0RnR+KN0 [39/64]

 いいのか?

 こんな俺が、周りにいる人達を不幸にすることしか出来なかった『疫病神』が。

 『自作自演野郎』が。親をも殺す不幸体質が。

 今度こそ、誰かの助けになることが出来ると。

 誰かを幸せにすることが出来ると。


 そんな幻想を、抱いてもいいのか?




 足を踏み出すには、たくさんの時間が要った。
 それでも、上条当麻はしっかりと地面を踏みしめ。

 インデックスが待つ病院へと向かった。


473 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 15:41:25.81 ID:Z0RnR+KN0 [40/64]

 肩で息をしながら、上条は病院の中を進む。
 上条の姿を認めたとき、冥土帰しはにやにやと笑った。
 それはまるで、子の成長を見守る親のような、ひどく生暖かな笑みだった。

 ステイル=マグヌスと神裂火織は頭を下げてきた。
 二人とも目が赤く充血していた。
 どんだけ泣いてたんだよ、いい大人が。
 そう意地悪く言ったら、ステイルは「僕はまだ14歳だ」と言った。
 目を丸くする上条に、神裂も「私も18歳ですよ」と追撃した。
 さらにびっくりした上条に神裂は思わず魔法名を名乗りそうになった。

 慌てて部屋を飛び出し、上条は病院の二階、209号室を目指す。

 そこで、インデックスは上条当麻を待っている。


476 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 15:45:29.11 ID:Z0RnR+KN0 [41/64]

 一応月並みにノックしてから、部屋のドアを開ける。
 ベッドの上で、インデックスは正座してこちらを見ていた。
 上条の姿を認めると、インデックスはぽんぽんとベッドを叩いた。

インデックス「少しだけお話ししよ。まだ時間はあるから」

上条「なんでだよ」

インデックス「私、とーまのこともっと知りたい」

インデックス「だって、とーまは、私からしたら窮地を助けに来てくれたヒーローなんだもの」

上条「変な幻想抱いてんじゃねえよ」

インデックス「えー、だって」

上条「いいよ。わかった。胸糞悪い話をたっぷり聞かせて、その幻想を殺してやる」


478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 15:53:15.22 ID:Z0RnR+KN0 [42/64]

 そして、上条当麻は、14歳の誕生日を迎えてから初めて、他人に愚痴をぶちまけた。
 感情的に。赤裸々に。何も隠さず。何も取り繕わず。

 道を歩けば居眠りトラックが突っ込んできて、建設中のビルの傍を歩けば鉄骨が落ちてきて、外食すれば食中毒を起こす。
 上条がいつも不幸を語る上での、お決まりの文句だった。
 でも、この時だけは、その言葉には続きがあった。

上条「居眠りして事故を起こした運転手は職をなくしただろうし、ビル工事を担当していた建設会社は信用を失っただろうし、飯を食った店は営業停止になった」

上条「別にさ、いいんだよ。俺にどんだけ不幸なことが降りかかっても、それはもう慣れたんだ」

上条「だけど、俺の不幸は悉く周りを巻き込んじまう。周りの人間の人生を否応なく終わらせちまう。それには、やっぱり慣れらんねえ」

インデックス「でも、それは事故を起こした皆の責任で、とーまが悪いわけじゃ」

上条「いいや。きっと俺があの場にいなければ事故そのものが起きなかった。いるだけで不幸を呼び込む『疫病神』。それが俺なのさ」

 それだけは、確証をもって言える。
 14歳の誕生日のときに、嫌というほど思い知ったことだから。


482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 16:01:21.49 ID:Z0RnR+KN0 [43/64]

上条「だからさ、今まで出来るだけ人を近づけないように小賢しく立ち回ってきた」

上条「結構うまくいってたんだぜ? まあ、中にはビリビリ電気を出す中学生みたいな例外もいたけど」

上条「そんな俺が、お前を助けるために、自分から進んでここにいる。まったく笑っちまうよ。どこで間違ったんだろうな?」

インデックス「ううん。違う。とーまは、きっと正解したんだよ。正解の道を選んで今、ここにいるの」

インデックス「迷いに迷っていたとーまが、私という修道女に出会えたことでようやく正しい道にたどり着く。あは、よく出来すぎてて、聖書が一編書けそうだね!」

上条「そいつぁ大した夢物語(げんそう)だな……」

インデックス「とーま、とーま。私の頭を撫でて? あ、もちろん右手でね?」

上条「……?」ナデナデ

インデックス「えへへ。やっぱり幻想なんかじゃないや。とーまは私のヒーローだよ。私の思いはとーまの右手に触っても変わらなかった!」

上条「あぁ、そう……ならもう好きにしろよ」

インデックス「うん!」

 インデックスは上条に向かってその手を差し出してきた。


485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 16:07:51.82 ID:Z0RnR+KN0 [44/64]

上条「……なんだよ?」

インデックス「握手しよ? 信頼の握手。私はとうまにこの命を預けるんだから」

 上条の体が硬直する。
 インデックスは手を差し出したまま、上条の目をじっと見つめている。

 ―――いつかお前にも、お前を理解し、共に在ろうとしてくれる人は現れる。

 父の言葉が蘇る。

 ―――恐怖を乗り超えろ。どんなに怖くても、その手を振り払うな。

 それは、耳元で優しく囁きかけるような声だった。

上条「……俺は不幸だ」

インデックス「知ってるよ」

上条「その不幸で、結局お前の人生をめちゃくちゃにしちまうかもしれない」

インデックス「私は、この命をとうまに預けるよ」

上条「……ったく。おかしな奴だな、お前は」

 上条はその右手で、しっかりとインデックスの手を握り返した。


490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 16:12:30.71 ID:Z0RnR+KN0 [45/64]

上条「それ、俺は具体的に何をどうすればいいんだ?」

 上条は、病室に行けと言われただけで、冥土帰しから他に何の指示ももらっていない。

インデックス「うん、それなんだけど……」

 インデックスが急に頬を染めてもじもじし始めた。

上条「な、なんだよ…?」

インデックス「あの、あのね? 私の体のどこに呪いがされているのかはわからないの」

上条「うん」

インデックス「だから、その、とうまの右手で、うう、私の、私の体をね?」

上条「お前の体を?」

インデックス「……隙間なく、触ってほしいの」

 最後は消え入るような声だった。
 ぷしゅう、と顔を伏せてしまったインデックスの頭から湯気が立ち上る。

上条「……はぁぁぁぁぁああああああああああ!!!???」


499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 16:19:34.49 ID:Z0RnR+KN0 [46/64]

 ごくり、と唾を飲む音が響いた。
 インデックスは覚悟を決めたように目を瞑っている。
 胸を張って差し出すようにしたまま、顔を紅潮させて目を瞑っているのは、はたから見ればキスを待っているようにも見える。

上条「じゃ……じゃあ、いくぞ?」

インデックス「う、うん……お手柔らかに、お願いします」

 上条はそっと、まずはインデックスの頭を撫でた。
 インデックスの体がびくりと震える。

上条「あ、頭はさっき触ったんだったな、あはは、じゃ、じゃあ次……」

 上条はそのまま右手でインデックスの頬を撫でた。
 熱い。インデックスの赤く染まった顔はとてもとても熱くなっている。
 それから、首。
 首筋を、指を使って優しく撫でていく。

インデックス「あっ…」

 ぴくん、とインデックスの体が揺れた。

上条「なななななんだよオイへんな声出すなよ!!」

インデックス「だ、だってとうまがえっちな風に触るから……」

上条「してねえよ!! ぜぜぜ、全然そんなこと、してねぇしぃ!!!!」


507 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 16:24:53.99 ID:Z0RnR+KN0 [47/64]

 胸だとか、お尻だとか、股間だとか、そういう刺激的なところを避けて触っていく。

インデックス「あ…ふ…ん…!」

上条「インデックス、ちょっと横になってくれ。足触るから」

インデックス「う、うん……」

上条「いくぞ…?」

インデックス「ふぅう…!」

 口から出る喘ぎを堪えているのだろう。
 鼻から漏れる息が妙に艶かしくて、上条を刺激した。

上条「だいたい…触ったけど…調子はどんなだ? インデックス」

インデックス「……駄目、何も変わった様子はない。か、体は熱くなったけど……」

上条「そ、そか……なら、うん、あと、触ってないところを、な…? 触るからな…?」

インデックス「う、うん…」

 いつの間にかインデックスと上条はお互いに顔を真っ赤にしていた。


511 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 16:28:35.17 ID:Z0RnR+KN0 [48/64]

インデックス「あ…あ…!」

上条「へ、へんな声出すなよ!」

インデックス「だ、だって……ひゃう!」

インデックス「やだ…とうま、おしりばっかり触りすぎ…!」

インデックス「そ、そんなとこ…ああ…!」







ステイル「……!!」ドタンバタンドッシン!

神裂「おおおおちつきななささささいすすすすているるるるる」

冥土帰し「君も落ち着きたまえよ……」

 もちろん不測の事態に対応するため、三人とも部屋の外で待機していた。


514 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 16:34:58.65 ID:Z0RnR+KN0 [49/64]

上条「おい…もう全部触ったぞ……」

インデックス「うん…あとは…私の中、だけだね……」

上条「なか!? なかってお前…!?」

 インデックスという少女の体を指して中というからにはその部位は限られる。
 すなわち、上か、下かだ。

インデックス「う、上から! 上からお願いするんだよ!!」

上条「言われるまでもねえよ!」

 上条は大きく開いたインデックスの口の中に恐る恐る指を進ませていく。


 瞬間、ぞわりと背筋が震えた。
 インデックスの口の中に右手の指があたる。
 バギン! と音がした。
 考えるより早く、上条はインデックスの体から飛び離れる。

インデックス「警告…警告…! 『禁書目録』の首輪、その破壊を確認。103000冊の魔道書の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」

 血のように赤く染まったその瞳は、既にさっきまでのインデックスのものとは異なっていた。


520 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 16:42:49.05 ID:Z0RnR+KN0 [50/64]

ステイル「インデックス!!」

神裂「無事ですか!? 上条当麻!!」

冥土帰し「これは……!」

 外で待機していた三人が飛び込んできた。

上条「よう…なんだお前ら、覗いてたんかよ。趣味悪いな」

ステイル「状況は!?」

上条「見ての通りさ。呪いをぶち殺したら、なんかトラップが作動しやがったぜ」

神裂「馬鹿な……彼女の体から迸るコレは、魔力? 彼女に魔力は存在しないはずでは…!?」

冥土帰し「つまりはそれも、嘘だったってわけだね。やれやれ、こんなことが起こるかと思ってこの病棟のほかの患者は退避させておいたけど」

冥土帰し「こんな凄まじいものだとは想像だにしてなかったなぁ。このままじゃ、僕の病院ごと吹き飛ばされたりはしないだろうね?」

 そう危惧するカエル顔の医者の目の前で、インデックスはどんどん異質に変化していく。
 インデックスの両目に宿っていた赤色、真紅の魔方陣が輝きを増した。

インデックス「これより『聖ジョージの聖域』を発動。侵入者を破壊します」


525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 16:49:34.37 ID:Z0RnR+KN0 [51/64]

ステイル「まさか……」

神裂「こ、これほどとは……」

 目の前に展開された術式を前に、魔術の知識に聡い二人の動きが凍りつく。
 だけど、そんな知識など欠片もない上条にとって、目の前で起きている事象がどれ程凄まじいものだろうが関係ない。

 ただ、それが異能の力であるのなら。
 この右手で殺しつくしてやるだけだ。

上条「いいぜ。魔術だかなんだか知らないが、そんなちっぽけな力で」

 この俺を。
 『不幸』という運命に抗い続けて今まで生きてこれたこの俺を。
 殺せるというのなら。

上条「そんな幻想は、この俺がぶっ殺す!!」

 駆け出した上条の目の前で、空間が裂けた。
 ぞくり、と上条はその人の域を逸脱した第六感でもって直感する。

 やばいのが、くる。


531 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 16:59:03.30 ID:Z0RnR+KN0 [52/64]

 インデックスの目の前で裂けた空間から、光の柱が襲い掛かってきた。

上条「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 上条はその光の柱に咄嗟に右手をぶつける。
 だが、光の柱はその進撃を一旦止めたものの、まったく消え去る気配を見せない。
 それどころか、むしろ上条の右手を吹き飛ばそうとじりじりと前に進んでくる。

神裂「無茶です! いくらあなたの右手が常識から逸脱していようと、今放たれた一撃は『竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)』!!」

ステイル「恐らくは103000冊の魔道書を組み合わせた究極の一撃だ…! 今拮抗しているのだって奇跡みたいなものだ…!!」

上条「だから……どうした」

神裂「え…?」

上条「見ろよ。その魔術だか何だかの究極ったって、こんなもんだ。身近な不幸で右往左往してきた俺を吹き飛ばすことも出来やしねえ」

 上条当麻は確信した。
 何てことはない。救える。この程度なら。
 この程度の危機になら、今まで何度だって直面してきた!

上条「づおらぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」

 上条の右手が『竜王の殺息』を受け止めたまま、ぎりぎりと指を曲げていく。


539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 17:09:51.73 ID:Z0RnR+KN0 [53/64]

神裂「ま、まさか……!」

ステイル「『掴んでいる』のか!? あのドラゴン・ブレスを!!」

冥土帰し「なるほど。消せないのなら、逆にそれを利用して……」

 上条の右手が、『竜王の殺息』の軌道を捻じ曲げていく。
 水の流れが巨大な岩にぶつかり、その岩が微動だにしなければ。
 水は岩を避けて流れを変える。なんとも単純な、道理の話だ。

 捻じ曲げられた『竜王の殺息』は上条の目の前で進行方向を変え、上方へうちあげられる。
 上条は前に出した右手で『竜王の殺息』を捻じ曲げながら、一歩一歩、インデックスへと距離を詰めていく。

上条「さあ、終わりにしようぜ」

 もう届く、手を伸ばせば、すぐそこだ。

 胸に抱き続けてきた幻想を、胸の内で殺さず、今こそ形にしよう。

上条「死にたくなかったら伏せなぁ!!!!」

 叫んで、上条は『竜王の殺息』から手を離した。
 一瞬だけ後方に真っ直ぐ照射されたブレスが、ドアも窓も飲み込んで学園都市の夜空に消えていく。
 そして、上条の右手はインデックスの頭を掴み、その場に押し倒していた。


545 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 17:19:08.54 ID:Z0RnR+KN0 [54/64]

 バシュウ、と音を立て、竜王の殺息が消える。
 インデックスの体を包んでいた異様な魔方陣が姿を消す。
 穏やかに眠っているように見えるその顔は、もう上条達の知っているインデックスの顔だった。

 掴み取った。この手に。ようやく。
 俺は、ようやく誰かを救うことが出来たんだ――!
 喜びに両手を握り締める。

「―――、――――!!」

 聞こえてきた声は、誰のものだったのか。
 天井からは降り注ぐ光の羽。
 一枚一枚が、触れただけで必殺の威力。上条は一瞬で羽の本質を感じ取った。

 そして、度重なる不幸の中で磨かれ、神の域にまで達した危険察知・回避能力は彼の体を行動させる。
 そこに意志の力は介在しない。全ては反射ですましてしまった。


 すなわち、彼の体は大きくその場を飛び退り、彼の右手は彼に降りかかる羽全てを打ち払った。


 バグン、バグンと体のはねる音。



 インデックスの体に、いくつもの羽が降り注ぐ音だった。


552 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 17:21:39.18 ID:Z0RnR+KN0 [55/64]


 一体誰が責められるだろう。


 この力があったから、彼は今まで生きてこれたのだ。


 聖人なんて、桁外れの怪物とも互角に殴りあうことができたのだ。


 彼を責めるのは筋違いというものだ。


 彼はただ、どこまでも『不幸』だっただけなのだから。




572 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 17:30:13.35 ID:Z0RnR+KN0 [56/64]

 ―エピローグ―

 上条の目の前では、様々な医療器具が接続されたインデックスがベッドで眠っていた。
 彼女はあれから全く目を覚まさない。
 というより、彼女は間違いなくあの時死んだのだ。
 ただ、冥土帰しの力によって無理やり体だけが生き返らせられたに過ぎない。

 確かに、上条当麻は少女を縛っていた呪縛をぶち壊した。
 しかしそれは、結果として、彼女の全てを壊しつくすという、あまりにも乱暴なやり方になってしまった。

ステイル「君は103000冊の魔道書を纏めておじゃんにしてしまったんだ。これから僕の組織の人間は憎しみを持って君を襲ってくるだろうね」

 赤い髪の魔術師は、去り際にこう言った。

ステイル「無論、僕だって例外じゃないさ。……筋違いとはわかっているよ。でも、他にこの感情をどこにぶつけたらいいかわからないんだ」

ステイル「彼女の姿を見たかい? ああいう風にならないように、僕達は彼女の記憶を消してきたっていうのにね」



 上条はその手でインデックスに触れようとして、やめた。

冥土帰し「来てたのかい?」

 冥土帰しの医者が病室の中を覗きこんできたが、無視して上条は病室を飛び出した。


582 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 17:36:56.50 ID:Z0RnR+KN0 [57/64]

上条「あーあ……まーたやっちまった」

 わかっていたはずだった。
 自分が行動すれば、こんな結果が待っていることくらい。
 なのに、もしかしたら人並みになれるかもなんて、甘い夢を見て。

 結果、上条当麻は一人の少女を殺した。
 純真で、無垢で、きっときっと最後には幸せな未来が待っていたはずの少女を。
 運命を捻じ曲げて、殺した。

上条「はは、ははは……」

 もうわかったろう。
 全ての希望は幻想だ。
 こんな右手を持っている自分に、そんなものは抱けない。

上条「あはははははははははははははは!!!!!!」

 人間は、学んでいく生き物だ。
 確か、俺はそんなことをステイルに言っていたな。

 もう、おかしくて仕方なかった。


589 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 17:43:39.20 ID:Z0RnR+KN0 [58/64]

 バヂン! と紫電が迸る。
 まったくの不意打ちで襲ってきたその一撃も、上条は対応し、右手でかき消していた。
 しばらく、上条はじっと自分の右手をみつめていた。

上条「馬っ鹿でー……今ので死んでりゃ楽だったのによ」

美琴「見つけたわよアンタ」

 声に、右手を見つめていた視線を前に移す。
 いつの間にか、御坂美琴が目の前に現れていた。
 へら、と思わず上条の顔が緩む。

美琴「何笑ってんのよ」

上条「お前さ、馬鹿だろ?」

美琴「なんですってぇ…!」

 美琴は昨夜より包帯の量が増えた顔を怒りで歪ませた。

美琴「殺してやる…今度こそ、今度こそ殺してやるわ!!」

上条「かなわねえって分かってんだろ? 今までだって、ギリギリの所で俺が見逃してやってたことに気付いてたんだろ?」

 美琴の体が、怒りに燃えていたはずの体がぞくりと震えた。
 違う。何かが、昨日までのコイツとは違ってしまっている。


598 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 17:47:58.09 ID:Z0RnR+KN0 [59/64]

上条「なのに、何で来た? 見たところ、秘策を用意してきたってわけでもなさそうだしよ」

上条「ちゃんと言ってたよなあ? 次に来たら短パン剥いで中身晒すぞって」

上条「ひょっとして、俺を舐めてたか?」

上条「ギリギリで、最後の一線だけは踏み越えてこないだろうって期待してたか?」

美琴「な、何を……」

上条「ああ、駄目だ駄目だ。もしお前が、俺に対してそんなイメージを持っちゃってるってんなら」

 パキリ、と上条の右手が音を鳴らす。


上条「そんな希望(げんそう)は、殺さなくっちゃな」



613 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/16(土) 17:54:34.08 ID:Z0RnR+KN0 [60/64]

 誰も来ない路地裏で、くぐもった悲鳴が連続する。

上条「ほら鳴け鳴け!! ほら、ほらあ!!!!」

美琴「あぐ、ふぐ、あがぁ!!」


 この日、一人の男が闇に落ち。

 一人の少女がその純潔を散らした。




 この日を境に、少年を光当たる世界で見かけたものはいない。

 少年は、闇の底の底まで加速度的に堕ちていき。


 そしてそこで。



 少年は、同じく闇の底であがき続ける、白い悪党と出会うのだ。


     <終>     続くかもしれないけど今日はもう書く気がしない はてなブックマーク - 上条(悪)「その希望(幻想)をぶっ殺す」2
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